江戸時代の絵師・歌川広重による浮世絵「東海道五十三次」には、難所を超える旅人や、帆掛け船の浮かぶ駿河湾や駿河湾越しの富士山が描かれている。今でも『薩埵（さった）峠』から眺める富士山は絶景で、多くの人々を魅了して止まない。

その富士山の眼下に広がる駿河湾。

とびっちょのしらすの多くは静岡県・駿河湾用宗近海で獲れたものを使用しています。用宗近海で獲れるしらすは何が違うのでしょう？そこには2つの理由があります。

まず一つは、用宗近海は極めて水が奇麗なのです。 用宗近海は、安倍川、大井川という大きな河川に挟まれているのが特徴であり、駿河湾に流れ込む安倍川は、静岡県静岡市葵区および駿河区を流れる河川。清流としても有名で、その伏流水は静岡市の水道水にも使われている程。その水質の良さから2008年環境省の“平成の名水百選”にも選出された一級河川なのです。

用宗海岸も環境省から水質の良い全国の海水浴場ベスト５に選定されています。静岡県駿河湾は安倍川と用宗海岸双方、全国の中でもトップクラスの水質を誇っているのです。

もう一つの理由は森にあります。 駿河湾には安倍川の他にいくつもの河川が注ぎ込まれています。大井川などは南アルプスの険しい山岳地帯を流下する河川で、流域の平均年降水量は3,000mmと古くから水量の豊富な河川です。自然が育んだ豊かな森、そしてその森の栄養をいくつもの河川が駿河湾に送り込みます。栄養はそのまま魚の餌になるプランクトンを大量に発生させます。安倍川の流入する急深な沿岸は、魚にとって恰好な住み家となっています。すなわち用宗近海はしらすをはじめ新鮮な魚の宝庫であると共に、最高の漁場でもあるのです。

午前４時。

あたりは真っ暗です。

ここ用宗でのしらす漁は、夜明け前から動き出します。日が昇る前には出港できるようにまだ真っ暗なうちから漁船の準備を整えます。暗闇の中で静かに揺れる漁船の灯りがこれからのしらす漁への緊張感を高めます。

港を出たとたん、全漁船は一気にスピードをあげます。海面を、17ノットで走っていきます。波のうねりと闘いながら、魚影探知機を使い、しらすの群れを探してポイントを調べます。適度な速度で船を走らせながら、ベストなポイントを探して長さ約２００ｍの網を入れていきます。

用宗のしらす漁は、「2艘が漁船」「1艘が輸送船」の3艘一組で行われます。2艘の漁船が100メートルの間隔で網を引きながらしらすを捕獲する「船びき網」を行い、1艘の輸送船がしらすを運ぶために漁場と用宗港を往復します。

輸送船は2艘のそばに待機し、水揚げしたしらすをすぐに港に運び、また漁場に向かいます。漁場は駿河湾の用宗沖から久能沖の近海なので、短時間でしらすを水揚げする事ができます。

港には次々に輸送船が入り、船が着くたびに入札方式でしらすのセリが行われるので、しらすはすぐに加工業者や漁協の手に渡ります。このような用宗独特のしらす漁のおかげで、しらすの鮮度を落とす事なく釜揚げする事ができるのです。

天候、水温、潮の流れ。しらすは日によって微妙にその味が変わる、繊細な魚です。

それを、目と触った感触だけで見極める事が出来るのは、まさに熟練の勘のなせる業なのです。漁った漁船によっても大きさ、色、味が異なってきます。それぞれの籠をつぶさにチェック。

張りのある競りの掛け声が場内に響く中、買参権をもつ競り人たちが、今日取れた中でも最高のしらすをめぐってしのぎを削る。

極上の釜揚げしらすを作れるかどうか、この競りに全てがかかっているといっても過言ではありません。

競り落としたしらすはすぐさまﾄﾗｯｸに積み込まれ、釜揚げ工場へと運ばれます。

落札後、トラックにに積み込まれたしらすは、すぐさま工場へと運ばれます。競り場のある福田港から、わずか３分という距離にあるカネ吉の工場では、しらすの到着に備えて、釜揚げ職人たちが準備に追われています。

釜揚げの工程で一番重要なのは、塩加減。これ一つで、釜揚げしらすの味が決定するのです。

その日のしらすの大きさ・味に合わせた微妙なさじ加減。

その見極めは、港釜揚げしらすの出来を左右する大きな要になります。

釜揚げが進むにつれて、工場の中は磯の香りでいっぱいになります。

香りをおかずに白いご飯が食べたくなるほど、港釜揚げしらすの美味しそうな香りで、しらずしらずのうちに笑顔に。

釜揚げしらすを、『簾（すだれ）』と呼ばれる網に手早く均一に広げていきます。

最高品質の釜揚げしらすを出荷するためには、最後のチェックが欠かせません。

チェックをしながら、山積みのしらす干し籠にしらすを並べ、盛期にはこの数では足りないほどの釜揚げしらすが作られます。